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 2003年12月20日。茅ヶ崎市民文化会館にて行われた「伝統芸能発表会」に行ってきました。

 天気のよい土曜日ということもあって、会場にもたくさんの人が来てくれましたよ。「部活.ネット」では、ずっと取材を続けてきた茅ヶ崎高校文楽部の年度内最終行事ということもあって、ステージ裏にも潜入して、彼女たちの緊張感も見せてもらいました。

 「部活.ネット」が本格始動する際に最初の取材相手が茅ヶ崎高校文楽部であったことや、その取材場所が昨年の伝統芸能発表会であったことなとが思い出され、わずか1年とはいえ、懐かしいような気持ちにもなりました。

 ちょっとした映像もお届けしますので、関心を持ってもらえれば幸いです。

参加高校の紹介[プログラム順]
 1.県立二宮高校 相模人形部 2.県立厚木東高校 人形浄瑠璃部 3.逗子開成高校 和太鼓部 4.県立中央農業高校 和太鼓部 5.相洋高校 和太鼓部 6.県立茅ヶ崎高校 文楽部 7.県立高浜高校 文楽部 8.県立愛川高校 伝統文化[教科] 9.星槎高校 和太鼓部 10.桐蔭学園高校 和太鼓部 11.光明学園高校 和太鼓部

 出演者の皆さん、関係者の皆さん、お疲れ様でした。


 この発表会をもって3年生たちは引退となる。「部活.ネット」初代特派員の徳光まゆちゃん(写真左)自ら『寿式 二人三番叟』の人形遣いを熱演することに。
 「これがたぶん最後の文楽。思い切り、悔いのないよう踊ってきます」

 という力強い言葉通り、五穀豊穣・国土安穏を祈り、舞台を清めるとされる踊りを熱を込めて演じた。

 悔いなき部活生活を終えられたでしょうか?
  
左)場内はかなりのお客さんが来ていた。 中・右)開演直前の舞台裏。めちゃめちゃ慌しい
  
左)文楽は「口上」と呼ばれる紹介で始まる。 中・左)舞台での熱演

高浜高校文楽部
 茅ヶ崎高校同様、一人遣いの文楽であり、師匠をはじめとする指導陣もほぼ同じ。でも、部員の中には男の子も。

 演目は『傾城阿波之鳴門 巡礼唄の段』。「ととさまの名は...」という語りが有名な作品である。

愛川高校 三増(みませ)の獅子舞
 愛川高校では、3学年合同の選択科目として「伝統文化」が取り入れられ、地域の先輩方に指導を受けているそうな。

 今回はその集大成といった意味も込められているようだ。そういう授業を企画・実行している愛川高校にエールを送ります。

ちょっと映像でも見ますか

茅ヶ崎高校文楽部  ◇高浜高校文楽部  ◇愛川高校獅子舞
 
 実際には全出場校を取材できず(したがって、学校名以外ご紹介できず)申し訳ありませんでした。次なる機会がありましたら、是非ご一報を!


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 文楽というものをご覧になったことはあるだろうか。

 人形浄瑠璃という名前でなら知っている、という人も多いかもしれないが、実際に見たことがある、という人は少数派に属するであろうし、やったことがある、となればそれだけで履歴書に書けるほどの存在だと考えていいだろう。

 所謂「伝統芸能」も、もとはと言えば“流行りモノ”であった。流行るものはすたれる(栄枯盛衰というやつですなぁ)というわけで、室町時代に端を発し江戸時代に隆盛を極めたとされる文楽も、今や風前の灯というのが現状である。

 しかし、「義理と人情」という日本人を日本人たらしめるものが単なる“流行りモノ”であろうはずもなく、それを「文化」という形にまで昇華した文楽には、何か心惹かれるものがあるに違いない。

 茅ヶ崎高校に文楽部が生まれた契機も、当時の新聞部員が桐竹智恵子師匠を訪ねて「滅び行く無形文化財ともいうべき文楽保存に乗り出そう」と誓い合ったことだそうだ。

 「部活.ネット」では、取材活動の最初の相手(02年12月の高等学校伝統芸能発表会)が実はこの茅ヶ崎高校文楽部であったという経緯もあり、『高校生と伝統芸能』という一見何の繋がりもなさそうなところに、逆に興味を持ち、どうやって活動が維持されているのか、取り組み方はどうなのか、客は来るのか、といったことも含めて追ってきた。

 2003年9月27日、創部45周年の記念公演はその一つの集大成として、師匠・現役部員は勿論のこと、OGや顧問の先生方、学校関係者、その他の人たちを巻き込んで行われた。

 途中、部員がたった一人になってしまった時期もあり、存続そのものも危ぶまれた時期もあった。実際には1959年創設ではあったが、部に昇格したのは1999年のことで、それに至る苦労はとても我々には書き尽くせるものではないが、結果として「今、ある」ということで、卒業生や師匠・歴代顧問の先生方は誇りにしていいはずだ。

 「部活.ネット」読者の皆さんも、今後の彼女たちの活動を見守って頂ければ幸いである。

 以下は、開演前から終演後までを追った記録です。作品のちょっとした解説は、プログラムからの転用であることをご了承下さい。

=開演前=

出演者は緊張の頂点。最終リハでも師匠からの厳しい指導があった。人形がちゃんと動くかどうか、舞台・マイクのチェックなども怠りない。ちなみにお客さんは百数十名来てくれた。

=挨拶=
   
茅ヶ崎高校竹重綱夫校長と代表顧問・神沢正先生の挨拶。いよいよ開演だ。

 日本の伝統の儀式的舞踊として開演第一番目に行われるもので、五穀豊穣・国土安寧を祈り、舞台を踏み清める意味を込めて舞われる。
 
 「とざい、と〜ざい」という口上で始まる。口上役・人形遣い役ともに第一演目ゆえ、相当な重圧が掛かったが、何とか無事終了。お疲れ様です。

 阿波十郎兵衛し女房お弓は、忠義(盗まれた阿波藩主家宝の刀を探す)を尽くすために盗賊の一味となり、大阪のあたりに潜伏している。ある時、お弓が一人で留守番をしているところへ西国巡礼をしているという娘がやってきた。話を聞けば、三才の時、故郷に残してきた実の娘・お鶴だとわかる。お弓は思わぬ我が子との再会に戸惑う。幼い時に別れた娘は愛しい。しかし、お弓は親子と名乗っては盗賊の子として難儀がかかるかもしれないと思い、名乗るに名乗れない。母・お弓は心を鬼にしていったんは「国に帰りなさい」と言って無理やり追い返してしまう。けれども、今別れては二度と会うことはないだろうと思い直して、『程は行くまい追いついて、連れて戻ろう、そうじゃそうじゃ』と言いながら、後を追う。

 この作品では「父様(ととさま)の名は十郎兵衛、母様(かかさま)の名はお弓と申します〜」とお鶴が述べる部分が有名である。内藤千紗部長が自らお弓役を演じる前半のハイライトであった。
 
=一人遣い文楽解説=
 
 「傾城阿波の鳴門」終了後、顧問の神沢正先生と部長の内藤千紗さんが、一人遣い文楽の歴史・見所などを解説。

 井筒屋の息子伝兵衛と祇園の遊女お俊は深い仲で身請けもきまっていたが、お俊に横恋慕する男を殺してしまった伝兵衛は行方不明になり、お俊は実家に戻る。妹思いの猿回しの兄与次郎と母はお俊の身を案じて無理やり退状を書かせ、忍んで来た伝兵衛に見せるが、それは死を覚悟した書置きだった。娘の真情に感じた母は伝兵衛と連れ立って行くことを許す。兄与次郎は二人の門出の祝いに猿を舞わせるのである。
 
 OG5名が両手に猿の人形を手にして、計十体の猿が踊った。茅ヶ崎高校文楽部では、この「猿回しの段」は初演だったそうだ。
 

 

 大和に住む沢市という座頭は、疱瘡のため盲目になるが、幼い頃からの許婚お里を女房として、ともに暮らしている。手ずさみに弾く三味線を耳にして、お里は沢市の機嫌がよいのを喜ぶが、沢市はお里への「疑惑」を紛らわすために弾いていたのだった。毎晩七つ(午前四時頃)を過ぎると、女房お里が床にいたことがない。さては他に忍び会う男がいるのではないかと、沢市は邪推していたのである。しかし、お里は毎晩その時刻にそっと抜け出して、壺坂観音に沢市の眼病平癒の祈願に日参していたのであった。女房の真心を知ると、沢市の誤解も解けて、勧められるままに夫婦共々連れたって壺坂観音堂に向かうのであった。
 

 

 太夫はOG川野和子さん、三味線は鶴澤弥通さん
 
 口上・人形遣い・後見に加え、最終演目であるこの「壺坂観音霊験記」では、生の義太夫と三味線もつき、まさに三位一体の熱演であった。太夫もOGである川野和子さんが演じ、創部45年の集大成と言えよう。

  
 
 桐竹智恵子師匠を中心に終演後の挨拶。感無量であったに違いあるまい。写真・右は部員代表で挨拶する内藤千紗部長。
 
=師匠先生からの講評=
 
【桐竹智恵子師匠より】
 今日はみんなよくがんばった。45年続いてきたのも、先輩たちのおかげ。途中部員が一人になってしまったこともあったが、それでもその一人が確実に次に伝えてきた。そのことを忘れず、これからもがんばってほしい。

【岡本あづま師匠より】

 45周年の舞台を、現役・OGが一つになってつくりあげることができた。今日は大成功。あなたたちのやっている事は先輩たちが伝えてきたことなので、これからも大事にしていくこと。

<注>岡本あづま師匠は桐竹師匠の長女で、主に後見を指導なさっています。


終演後、桐竹智恵子師匠・岡本あづま師匠・神沢先生・現役部員 ・OGら勢揃いでの写真撮影

=3年生部員集合=
 
 さすが最上級生だけあって、終演後はかなり落ち着いていた模様。異口同音に「今日のために懸命に練習してきた。その成果が出せて、お客さんもたくさん来てくれて、本当によかった」とのこと。

 当「部活.ネット」特派員でもある3年徳光まゆさん(「まゆが行くざんす」執筆担当)は「部活、サイコ〜」と叫んでいたことを記しておきます。
写真は左から、石田優希さん・畠田佳代子さん・徳光まゆさん・内藤千紗さん

=全部員にインタビュー=
 
 私(管理人)が最も気になっていたのは、「なぜ文楽なんだ?」という点であった。人形劇なら他にもあるだろうに。

 気になるなら訊けばいいじゃないか、という基本的な精神に則り、全部員に共通の質問をしてみた。その回答を読んで、皆さん、どう感じるであろうか。

◇質問1:なぜ文楽部に入部しようと思いましたか?また、入部してよかった点は何ですか?
◇質問2:途中で辞めようと思ったことや辛かったことはありますか?
◇質問3:文楽の面白いところはどこでしょう?できれば文楽をよく知らない人たちに対するメッセージも込めてお願いします。
 

3年内藤千紗さん(部長)

@体験入部の時に心を惹かれ、三番叟を少しだけ教わったらとても面白かったので。他の学校だったら一人遣い文楽はできなかったし、他では出来ない経験が出来た。
A辛いのは人形と一心同体になれない時、気持ちがわからない時。

Bただの「モノ」のはずの人形が遣い手と一緒になることで「生き」始めます。人形が命を持って動いているような、そんな瞬間があります。


3年石田優希さん
@3年になってから部長さんから「人数が足りない」と聞いて、お手伝いとして入りました。
A楽しかったので、別段辞めようとは思ったことはありません。
B人が人形を動かして演技するところです。初めて間近で見た時も、ただ「すごいな」と思うばかりでした。

3年徳光まゆさん
@現部長に誘われて、見学したら入部させられた(笑)。よかったのは、一つのものを創り上げる「仲間」ができたこと。普段はバカ騒ぎしているけど、作品には真剣。先輩・後輩関係なく接し合える(だといいな?)。だから、あの時誘ってくれて感謝している。
A後輩が辞めちゃった時。私は下の学年とのパイプラインという役割だった。なのに、悩んでいることに全然気づかなかった。あの時は、自分がいる意味がないと思ってショックだった。そこから立ち直ったのは後輩のお陰。
B普段、制服のスカートを押えて階段を昇っていても、沢市なら足をかっぴらいていられる。いつも辛いのを隠して笑っている時、沢市が代わりに泣いてくれる。難しいことは何にもありませんよ。舞台の上なら何だってできるよ。
 

3年畠田佳代子さん
@珍しいと思ったから!どんなことをするのかと思って。だから最初は何をするかもそんなに知らなかったんですよ。入部してよかったのは、みんなと踊れたこと!後見さんを信頼して、相手と息を合わせ、みんなで創り上げる踊りが成功した時は最高!!
A辞めようと思ったことはないです。でも人形が思うように動かない時とかは、やっぱり辛かったです。ただ、役をもらった時点から、自分がこの役をやらないとこの演目はできない!って思えるから。一人欠けてもダメっていうのが文楽の大スキなところ。
B自分たちが舞うんじゃない、人形が舞うっていうのが楽しいと思います。だって、動かさなければただの人形なのに、私達が操ることで人形が泣いたり、踊ったり、喜んだり、怒ったりするんです。生きてるみたいに!!
 

2年坂本菜都美さん
@最初は親が勧めていたので、入るつもりはなかったんですけど、見学しにいって、ちょっと面白そうなので入部した...みたいなカンジです(笑)。あと、ある先輩のとても強引な勧誘かなぁ(笑)。
A今まで辞めようと思ったことは多々あります。でも、そのたび部活に行くと、なんだかそんな気持ちがなくなるんですよネ。不思議なものです。
Bやっぱり自分で人形が操れるようになるところが楽しいですよ。今まで経験したことのないことだから、何か新鮮なカンジです。文楽とか、そういった伝統モノは暗いカンジに取られがちだけど、そんなことは全くないです!現に私達はいつもバカやってます(笑)
 

2年脇あゆみさん
@特に理由はないけど、新しい事をしてみたかったからです。良かった点は伝統芸能に触れられた事。まさか自分が文楽やるなんて思ってもみなかったのに...。
Aあります(笑)!バイトも趣味のダンスもやってるから、忙しくなると辞めようと思ったり。人形が思い通りに動かせないと辛いし、支えている骨盤が痛くなってくると最悪です。
B一人の人が体全体で人形を動かしているというところ。遣い手によって表現の仕方が違うから、じっくり見て下さい!!

1年岩田奈津美さん
@入学式で先輩方がやった三番叟を見て胸がトキメキました。で、仮入部の時、先輩方もかなり優しい方ばかりだったので、この部活しかないと思いました。今の人生で一番の心の癒しです(笑)。
Aないですねぇ。
B日本文化を改めて知るイイ機会です。興味がない人も、ある人も、是非文楽を見て下さい。意外に面白いかもしれませんよ。

1年杉崎由美さん
@入学式の時に三番叟を見てカッコイイと思ったのが入部した一番の理由です。入部してよかったと思うのは、とにかくやっていて楽しい、ということです。
Aまだ入部してあまり時間もたっていないですが、3年間絶対に続けようと思っています。
B人形をつけて踊るというのが、とても楽しいな、と思っています。終わった後には充実感があって、もっとやりたいなといつも思います。文楽の仲にもいろいろな演目があるので、それを見て興味を持ってもらえたらいいなと思います。
 
1年匿名希望さん
@入学式でのことが印象的だったから。
Aないです。
B高校で初めて知ったけど、面白い!
 

1年山北夕貴さん
@興味本位で仮入部したら、面白かったので入りました。
Aあります。思ったよりヒマに感じたり、自分は必要ないんじゃないかって思ったこともありました。
B音楽に合わせて踊ったり、演劇みたいなこともできて、それに日本の文化に触れる機会があるので、ステキなところだと思います。

 今年も12月には平塚で「高等学校伝統芸能発表会」に出演することになっている茅ヶ崎高校文楽部。そこで3年生部員たちもようやく引退だそうです。

 これを読んだ皆さん、是非是非、彼女たちのステージを観に行って下さい。「部活.ネット」でも、勿論できる限りの取材をしたいと思っています。

 頑張れ、茅ヶ崎高校文楽部!