〜意志ある“脱皮”〜
 
44人でのA部門挑戦
 
指揮を執る渡邊良子先生はいみじくもこう言った。

「Aに行くかどうかは、人数じゃなくてエネルギーが飽和しているかどうかなんだって気づいたのよ」

管理人は55人までがステージに乗れるA編成で、フルには10名以上も足りない人数でチャレンジしたことについて、最大の決め手になったのは何だったのか、そこに大きな興味があった。

というのも、鶴嶺は昨夏のコンクールでB部門に於いて、湘南地区を突破、県大会でもあと一歩で東関東大会というところにまで到達し、このノウハウを成熟させる方法も十分取り得たからだ。

つまり、今年もB部門を選択することも可能な状況で、なぜ敢えてA部門にチャレンジしたのか、という意味だ。

そして、その答えが冒頭の言葉だったというわけだ。
 
  
指揮の“おちゃめ”渡邊先生をうまくフォローする原大志先生。ナイスコンビですね
 
実は昨年もAでいくかどうか、ということが検討されたそうだ。

当時は「まだ機が熟していない」という3年生たちの意見もあってBでの参加ということになったが、今年は3年生たち(14人のうち11人がコンクールに参加)が「Aに行くなら今年!」という意気込みを見せ、それがまさしくもって“飽和エネルギー”の源泉となったのであった。

今年の鶴嶺はテューバ・アルトサックス・フルートに初心者が入る構成。

それでも演奏のクオリティは素晴らしく高い。

原先生が金管全体をうまくまとめているため、全体の音が厚く、安定感も高い。

管理人が訪問した日、管理人の滞在可能時間に合わせて課題曲(ライジング・サン)・自由曲(交響組曲「高千穂」)を通しで演奏してくれた。

聴衆たった1名のコンサートといった風情で、管理人は背筋が痺れるような感覚に襲われ、泣きそうになった。

部員の皆さん、ありがとうございました。

選曲の経緯についても尋ねてみた。

管理人「自由曲はどうやって決まったのですか?」
渡邊先生「私が3曲候補を持ってきて、皆で聴いて、最終的に『高千穂』がひじょうにハマッて、惚れ込んでくれたんですね。課題曲でしっかりときれいに歩いて、太陽が昇ったところで壮大な『高千穂』の世界観をしっかり出そうという狙いです。」

管理人「これからの残された時間で克服すべき課題は何でしょうか?」
渡邊先生「全体の流れをしっかり掴んで、まとまりを作ってゆくことです。小さな声で、でもはっきり遠くにも聴こえるようにしゃべる、というイメージを植えつけていこうと思います。県大会だから、とか、ホールが替わるからといって何か演奏が変化するということはありませんね。」

管理人「原先生はどうお考えですか?」
原先生「お互いに聴き合う、という気持ちをもっと強く持つことが大事だと思います。自分が吹くことに熱中するあまり、他の音が聞こえなくなってしまうこともありますから。他の人の音を聴かなければ、音楽が独りぼっちになってしまうので、そうならないような意識を大切にして欲しいですね。」

ちなみに原先生はかつて北陵の定演やコンクールを指揮した経験もある現役トランペッター。
その言葉も的を射ている。

最後に県大会への抱負を訊かせてもらった。

渡邊先生「勿論、全力で頑張って、もう一つ高いステージを目指したいです。子どもたちにも今までとは違う風景を見せたい気持ちもありますし。東関東には10チーム進めますが、7チームくらいは鉄板でほぼ決まっているのが現状です。何とか残り3チームに入れるよう、Exciting & Dramaticな鶴嶺サウンドの演奏をしたきたいですね。」

茅ヶ崎代表として、是非満足のいく演奏をお願いしますね。
 
  
 
幹部部員,鶴嶺吹奏楽部を語る
 
あまり時間のない中で、やや慌ただしくもありましたが、新旧の幹部部員の皆さんにもお話を訊かせてもらいました。

質問は「県大会への意気込み、或いは鶴嶺高校吹奏楽部のアピール」ということでお願いしました。

大見山翠(みどり)さん(3年副部長。コントラバス)
『高千穂』は初めて聴いた時からやりたいと思いました。自分の担当パートも難しく、スキルアップにもなったと思います。鶴嶺の吹奏楽部は合奏が自分たちのテンションで大きなパートで出来るというのが特徴だと思います。実は最初軽音楽部に入ろうかとも思ったのですが、そうしたバンドなら個人的にも出来ると思って吹奏楽部にしました。吹奏楽部で本当によかったです。

行政(ゆきまさ)美香さん
(3年学生指揮。ホルン)
自由曲の『高千穂』のスローなところが子守唄になっているので、そうした繊細な部分をしっかり伝える演奏が出来たら、と願っています。うちの部のよいところは先輩・後輩の仲がいいということです。パート内の仲もとてもいいです。

<編集・注>
ここで大見山さんから「ホルンは仲よすぎっしょ」とツッコミが入ったことを報告しておきます。
写真後列左から田中茉唯(まい)さん(2年)、相原美奈さん(2年)、石井遥さん(2年)、前列左から行政美香さん(3年)、大見山翠さん(3年)。3年部長の須田ゆり子さんは残念ながらこの日は欠席
 
田中茉唯(まい)さん(2年学生指揮。トロンボーン
暑い中一生懸命練習してきたので、皆の予想を超えた感動を伝えられたらと思います。部員全員が一つになって、お客さんたちに自分たちが築いてきた『高千穂』の世界観を届けたいです。

相原美奈さん(2年副部長。ホルン)
中学時代に吹奏楽をやっていた人たちの中で、高校ではやめてしまう人が結構いてもったいないなぁ、と。ウチに来れば楽しく充実した部活ライフ、高校生活を送れますよ!

石井遥さん(2年部長。打楽器)
実は中学時代は銀賞や銅賞ばっかりで、金賞とか県大会とかは高校に入って初めて経験して、すごく嬉しいです。そういう喜びを力にして県大会では楽しんできたいと思います。鶴嶺吹奏楽部は学年やパートといった壁に関係なく仲がよいのが特徴ですが、やる時はやる、というけじめをつけることも忘れません。

さすが部長さん、ちゃんと締めてくれます。

是非、県大会でも「らしさ」を発揮した演奏をしてきて下さいね。

3年生諸君は受験との関係で、勉強も大変でしょうが、“選ばれし者の夏”と思って頑張って下さいね。

 
管理人,本日獲得した「新知識」紹介コーナー
 
@アンビル

管理人は最初「万力」(まんりき。技術科とかで両脇から強烈な力で挟み込む時使う機具)なのかと思っていましたが、どうやら鉄道のレールを切ってきたものとのことです。
(原先生・談)

『高千穂』の途中で出てくるものですが、英語での表記はanvil。原義は 「鍛冶屋が鉄を打つ時に使う金敷き、金床」。

ちなみに管理人は英語の先生だったりもしますが、知らない単語でした。

いやぁ、言葉としても楽器としても、新しいことを一つ知って嬉しく思います。

打楽器関係って、際限なく新しい楽器とか作れそうで、とても面白いですね。
 
Aバルトーク・ピチカート

コントラバスの弦を引っ張って竿の部分に強く当てつつ、ちゃんと音程を保つという奏法。
(うまく伝わっているとよいのですが...)

コンクールレポートの際は全く名前がわからず、渡邊先生に尋ねると「私はベチンと呼んでます」という大らかな回答(笑)。

楽譜上ではりんごのマークみたいのがついているらしいですが、原先生が「作曲家のバルトークが好んで使ったので、バルトーク・ピチカートと名づけられています」という王道の回答。
(ちなみに管理人はバルトーク作品では『中国の不思議な役人』という曲しか思い出せません...)

これが曲の要所で鳴り響き、少なくとも管理人は初めて聴いたので、いたく興味を抱きました。

もっといっぱいこうした「音の冒険」にトライしている楽曲を知りたいと思いました。
 
 
暑い中、懸命に練習し、その世界観を共有しようという意識が節々に見られる鶴嶺高校吹奏楽団。

渡邊良子先生が赴任されて3年目。
その音楽感が浸透した結果が、今回のコンクールの演奏に反映されたのだと、管理人は確信している。

バンド特性に合った楽曲と巡り合う幸運も、けして偶然ではあるまい。

未知のステージ目指して、残された時間を大切に過ごして下さい。

期待しています!